再び中高年にはボルダリングなのか

2003年6月14日記
 最近、面白い資料が手に入った。労働能力の経年変化(55歳〜59歳代の対20歳〜24歳代比)という資料である。斎藤一氏の「向老者の機能の特性」(労働の科学22巻1号)という論文で発表された図表の一つらしい。

 何が書いてあるかと言うと、表題の通り、例えば、視力は20代の若者に対し、50代の中年は約63%しかない、というようなデータである。その中からクライミングに関係の有りそうなデータを以下に紹介してみよう。

速度に関係した運動機能および動作調整能力
 全身跳躍反応 85  動作速度 85  運動調整能 59

筋力
 握力 75  屈腕力 80  背筋力 75  伸脚力 63

筋作業持久能
 筋作業持久能 82

関節可動度
 脊柱前屈 92  脊柱側屈 85  肩関節 70

感覚機能と平衡機能
 平衡機能 48

 以前ここで、中年はボルダリングだと書いたことがある。そのことをこのデータを参考に再度検証してみようと言うのが今回のテーマである。

 先ず、ボルダリングとロープクライミングの大きな違いとして一般的に、ロープクライミングはより筋持久力を必要とし、ボルダリングはより筋力或は筋瞬発力を必要とすると言われている。確かに、ロープクライミングは腕のパンプが起こり易く、ボルダリングは、デッドポイントやランジ、或は高度な引付けを要求される事が多い。

 これを上記の能力の低下率で見て見ると、筋持久能が82%に対し、筋力は屈筋力80%、背筋力75%、握力75%である。しかし、全身跳躍反応は85%と比較的高い能力になっている。

 斎藤氏のこのデータも、果たして何処まで信用して良いかわからないし、実際は一つや二つの能力だけで云々出来る物でもないから、このデータだけでは、どちらが年寄り向きと言う事は言えないとは思うが、一般に言われているボルダリングは若者向きと言う言葉は、体力と言う事を基準として言うならば、あまりそうとも言えないように思う。

 しかし、ここにはその数値が発表されていないのだが、気になる事があるのである。それは、以前何回か書いたことが有るとは思うが、足首の硬さである。硬さと言うよりは、急激に曲げた時の追従性の悪さである。静かに曲げればそれなりに曲がってくれるのであるが、高い所から飛び降りたりして足首が曲げられたりした時に、足首が曲がってくれず、大きな衝撃を足首に感じてしまうのである。その衝撃が少し大きいと、足首を捻挫してしまうのである。

 きつい靴を履いているから、足首の可動域が制限されるのだと言われる事も有るが、小生は、少なくも指は殆ど曲がっていないくらいの、相当に緩い靴を履いている。それでも、そんなに高くない所から、マットに飛び降りた時でも結構な衝撃を足首に感じてしまう。

 この事は、足首と膝をクッションに使って、着地時の衝撃を吸収し、安全な着地をする事が出来ない訳だから、ボルダリングに取っては相当に大きな障害になるように思われるのである。この障害を克服する為には、足首は使わず、膝を曲げ、尻餅を付き、所謂受身と言う格好で、後ろにひっくり返ると言う事をせざるを得ない。実際、下地の許す所では、この受身に因って事無きを得た事が何回か有るのである。

 しかし、この後ろへの受身は、少し高い所から落ちた時には特に、無意識の内に実行していた事なのだが、下地の悪い所では使えない技術なので、下地の悪い所での飛び降り方を練習しなければならないと思い、最近、意識して足首と膝の屈曲で衝撃を吸収する姿勢を取るようにした所、この足首への衝撃を感じる事が多くなったのである。そして、遂に右足首の軽い捻挫を引き起こしてしまったのである。で、実はこれがために、ここ暫くの休養を招来してしまったのである。

 この事は、ロープクライミングでは起こり得ない事であり、その対処法も考える必要は無い事なのであるが、墜落は常にグランドフォールというボルダリングの特性を考えると、やはりボルダリングは中高年にはあまり向いているものではないと言う事になってしまうのである。中高年ボルダリング説も揺らいでしまうのである。

 とはいっても、だからボルダリングは中高年には向かないというのは、やはり短絡的過ぎると思う。いや、思いたい。

 確かに、死ぬ確率はロープクライミングよりも格段に低いボルダリングでは有るが、負傷率はロープクライミングよりも格段に高いのがやっぱりボルダリングである。しかし、これらのボルダリング特有の危険は、それは回避する手段が無い訳ではない。それらの危険を回避する手段を駆使し、無理する事無く自分の能力の範囲内で実行すれば良い訳である。それが実行できれば、中高年でも怪我無く楽しむことが出来るわけである。

 これは、簡単な事ではないし、もしかすると、あと一手と言う所がなかなか出来ないで、或は面白くないと感じるかもしれない。なかなか上達しないから面白くないかもしれない。しかし、このあと一手を出すか出さないかの判断、心の葛藤、この辺のスリルが何とも言えない訳である。この楽しみはロープクライミングではなかなか味わえないように感じるのである。

 つまりは、ボルダリングは危険だから面白いのである。それが中高年に向いているかどうかなんて判定出来ないのである。判定する必要もないのである。ただただ無類に楽しいのである。


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作成年月日 平成15年 6月14日
作 成 者 本庄 章